梅雨晴れの山がちぢまり青田がかさなり|昭和七年六月

解説

 昭和七年六月の句。この頃の山頭火はどこか安住できる土地がないか探していましたが、その候補地としてあがってきたのが川棚温泉(現下関市豊浦町)でした。
 今回の句は、川棚温泉の木下旅館に宿泊している六月十八日に詠まれたものです。その数日前に梅雨入りしたようで、日記には

 午前は晴、午後は雨、これでどうやら本格的な梅雨日和となつた訳だ、(中略)行乞が出来ないので困ることは困るけれど。(十五日)

 梅雨日和、終日読書、さうする外ないから。(十七日)

 と書いており、連日の雨で外に出られていないことが分かります。そして掲句を詠んだ十八日には、

 快晴、梅雨季には珍らしいお天気でもあるし、ちようど観音日でもあるの
 で、狗留孫山へ拝登、往復六里、山のよさ、水のうまさを久しぶりに味つ
 た。

 とあり、久しぶりの晴れの日に、霊山として信仰される狗留孫山(くるそんざん)に登って自然を満喫した様子が伺えます。そのような日に詠まれた今回の句は、梅雨晴れの風景を詠んだものです。
 まず、「山がちゞまり」という表現が特徴的です。緑の濃くなってきた山が近くに見えたことをこのように表現したのでしょうか。また「青田がかさなり」という表現は、豊浦町の棚田を彷彿とさせます。

 さて「青田」は通常、夏ごろの稲が生い茂ってきた田のことを言いますが、山頭火はほかの句でも六月に「青田」を詠んでいます。

 はれたりふつたり青田となつた(昭和八年六月)

 晴れてけさはすつかり青田で(昭和十年六月)

 おそらく田植えが行われてうっすらと青く見える田のことを言っているのでしょう。さらに掲句では、青空と山が、田の水面に映っている様子も想像できます。
 室内で過ごす日々が続いた後に見た梅雨晴れの青空、緑鮮やかな山、そしてそれを映す田植えがなされたばかりの田が、まるで一枚の絵のように切り取られた一句です。