読書浄土
旅極楽
飯醍醐
酒甘露
これは、昭和12年の日記に山頭火が記した言葉です。旅は極楽のようだ、飯は醍醐(仏教の五味のうち最上の味のもの)のようだ、酒は甘露のようだと、好きなものを仏教用語でたとえながら列挙する中で、読書は浄土のようだと言っています。
ここからも分かるように山頭火は大変読書好きで、日々さまざまなジャンルの本を読んでいました。自由律の友人たちが出版した本、日本の古典文学、海外文学、さらに芥川賞受賞作等の最新作を読むこともありました。
令和5年4月14日(金)から令和6年4月7日(日)まで開催したコーナー展示では、日記に記録のある中から一部を選び、山頭火が読んでいた版に近いものを四期に分けて展示しました。当時の書物の雰囲気とともに、山頭火の幅広い読書生活をご覧いただきました。
ここでは、展示した20冊のうち4冊をピックアップしてご紹介します。
●『世界文学全集24 露西亜三人集』秋庭俊彦、原久一郎訳・新潮社・1928(昭和3)年初版
十二月十九日 曇。
其中日記 昭和十一年
(略)
Nさんから露西亜三人集を借りる、チヱーホフを読み返すために、――私は彼の作品を愛好してゐる、何度読んでも面白い、読む度に味が出る。
●『豆腐を語る』佐藤吾一・逓友・1933(昭和8)年初版
作者の佐藤吾一は明治18(1885)年生まれ。逓信省に入省し、のちにNHK仙台放送局長を務めた。
豆腐はあまりに我々の生活に即し過ぎるの故を以て世人は多く之を雲煙過眼視する。私は出来得る限り各種の角度、方面から豆腐を凝視して、其の本質を開明し、人生観を樹立しようとする
『豆腐を語る』はしがき
●『漂泊俳人井月全集』増補改訂版三版 編者:下島勲、高津才次郎・伊那毎日新聞社・1989(平成元)年
江戸時代後期の俳人井上井月の全集は、昭和5(1930)年に発行された。展示した資料は平成元年の増補改訂版三版で、初版の復刻版。
●『中央公論』第五十年第十号・中央公論・1935(昭和10)年10月1日
島崎藤村晩年の長編小説『夜明け前』の終章が掲載されている。
一月十八日 雨。
其中日記 昭和十四年
(略)
古い中央公論を借りたので、夜明け前の終篇を読む、読んでゐるうちに涙ぐましくなつた。……