『俳句研究』で組まれた特集
『俳句研究』では時折特集が組まれています。例えば「子規特集」や「芭蕉特集」、「現俳壇特集」等がありますが、ユニークなものとして今回は「支那事変三千句」(第五巻第十一号・昭和13年11月)を取り上げてみます。
「支那事変三千句」は前年に始まった日中戦争を受けて組まれた特集で、この号の編集後記には「戦線に己を捨てゝ戦ひつゝある英雄詩人たる将兵諸氏の戦線俳句と、忍従よく後顧の憂ひなからしめてゐる銃後国民の俳句を集録して」とあります。翌年4月には再度「支那事変新三千句」特集が組まれました。まだ太平洋戦争は始まっていませんが、この頃から多くの俳人が戦争を題材に俳句を詠んでいたことが分かります。
これらの特集は定型・自由律にかかわらず様々な雑誌から支那事変に関連した句を選んでまとめたものであり、山頭火やその周辺の自由律俳人の句も散見されます。山頭火と特にゆかりの深い自由律俳人では、師の荻原井泉水をはじめ、兼﨑地橙孫(じとうそん)、小林銀汀(ぎんてい)、久保白船(はくせん)、木村緑平(りょくへい)などの句が選ばれています。
主流ではない自由律の俳人も取りこぼさずに掲載しているところにも、総合俳句雑誌という性質がよく表れていると言えるでしょう。
銃後風景
(「支那事変三千句」より山頭火の句)
応召軍人の家
枝の密柑も冴えかへる月の日の丸も
こんな谷間に日の丸が一つへんぽん