昔の人の書いた文字を読む

みなさまお久しぶりです。
学芸員の髙張です。
突然ですが、山頭火が書いた文字が読みにくい、と思ったことがある方は多いのではないでしょうか。
そこで今日は簡単に、なぜ山頭火の文字が読みにくいのかを解説してみたいと思います。

現在、日本語を書くための文字として、ひらがなが48字、カタカナが48字、そして漢字(常用漢字は現在2136字)の三種類があります。
このうち、ひらがなの48字というのは、明治33年の「小学校令施行規則」によって、初等教育で教える文字として定められたものです。それ以前には、ひらがなは48字以上存在していました。

どういうことかと言うと、「ア」という音を表す文字として、「あ」以外の仮名が存在していたのです。
「イ」も「ウ」も「カ」も「サ」も、「い」「う」「か」「さ」以外の文字がありました。
平安時代から明治頃までの人々が使っていた、現在使用されている48字以外の仮名を、「変体仮名」と呼んでいます。
明治33年以降、初等教育で教えられなくなると徐々に衰退していき、現在日常生活で変体仮名を使用する人はほとんどいないでしょう。

ちなみに山頭火は明治33年にはすでに尋常高等小学校を卒業していましたので、日常的に「変体仮名」も使用しています。

さて、48字のひらがなもそれ以外の変体仮名も、漢字を崩してできた文字です。
例えば「あ」は「安」、「さ」は「左」という漢字が元になっています。

変体仮名と現在使われているひらがなの違いは、元になった漢字が違う、という点です。
例えば「ノ」を表す変体仮名のひとつに、下の画像のような文字があります。

これは「能」が元になっている変体仮名です。

また、「キ」を表す仮名に、下の画像のようなものがあります。

これは「起」という漢字が元になっています。

変体仮名を覚えて読めるようになるには時間がかかります。
ただ、現在私たちが使っているひらがな以外のひらがながあったということを知った上で山頭火の書を見ていただくと、一字一字を読めなくても、新たな発見があるかもしれません。