山頭火 最後の句

みなさまこんにちは。

山頭火ふるさと館学芸員の高張です。

10月11日は山頭火の命日でした。
81年前の昭和15年10月11日未明、山頭火は松山で息を引き取ります。

さて、山頭火の辞世の句は
「もりもり盛りあがる雲へあゆむ」
だとされています。
これは自由律俳句雑誌『層雲』昭和15年11月号に掲載された句で、
『層雲』掲載句の中ではこれが最後となったため、辞世の句と言われているようです。

ただ、この時期に書いていた句日記を見てみると、この句よりも後に詠まれたものはいくつもあります。
句日記の中で最後に書かれているのは、10月6日付の次の4句です。

ぶすりと音たてて虫は焼け死んだ
焼かれて死ぬる虫のにほひかんばしく
打つよりをはる虫のいのちのもろい風
焼かれる虫の香ひかんばしく

日記では10月6日付の項に
「ぬくいので藪蚊が来襲してさんざんだつた」
とあります。
山頭火も人の血を吸う蚊には、さすがに蚊取り線香を焚くほかなかったのでしょうか。
しかし、焼かれ死んだ蚊の死に際を見つめ、「ぶすりと音たてて」「にほひかんばしく」「いのちのもろい風」等と五感を使って表現しているところが、どんな小さな生き物にも目を向ける山頭火らしいと感じます。

自分の死期を悟っていたわけではないと思いますが、
命の終わる瞬間を切り取った句が、日記に残された最後の句となったのです。